院長ノートnotes

妊活しているのに……ストレスが妊娠に影響している?

「妊娠したい女性にとってストレスはよくない」ということは、一般的にもよく知られていますし、感覚的にも「そうなんだろうな」ということはわかるかと思います。
ストレスそのものや、ストレスを感じる仕組みなどを理解して、過剰なストレスを感じないよう、自分なりの工夫をしたいものです。


私たちは日々、周りの環境や人との関係の中で、様々な影響を受けています。
それらは良い影響を私たちにもたらしてくれることもあれば、時に「ストレス」と呼ばれる形で、心や体に何かしらマイナスの影響を与えることもあります。
では、ストレスとはいったい何なのでしょうか。


目に見えない「ストレス」がどういうものなのか、そして妊娠にどのような影響を与える可能性があるのかを考えてみたいと思います。
私たちは「ストレスを受けている」と心の中で感じたり、それを口にしたりすることがあります。
しかし、同じ状況下にあっても、それをストレスと感じる人もいれば、そう感じない人もいます。
つまり、周りの環境や人そのものが、ストレスというものではなく、それらによって影響を受けたときの反応――それは医学用語で「ストレス反応」といいますが、そのストレス反応をわたしたちはストレスと言っているのです。


ストレス反応とは、自分の心身を守るための仕組み

「ストレス」というと体によくないイメージがありますが、本来のストレス反応の役割は、一言でいうと、「私たちの心や体を外的な影響から守るための仕組み」といえます。
ストレス反応が起きているときの不快な感じや違和感を、私たちはストレスと表現し、ストレスを受けていると感じているのです。

その反応は日々の何気ない場面でも生じています。

たとえば夫婦やカップルでけんかになったとき、「あなたの○○が悪い」「しばらく帰らないから」など、時に険悪になることもありますよね。
これは、けんかという状況から「自分の心を守るため」に、相手に対しけんかの原因を探したり、その場を離れてみようとしたり、といった行動に出ているわけです。
口にした言葉は意識的なものですが、その元をたどれば無意識の「ストレス反応」によって導かれた行動ともいえます。

では、そのストレス反応が起こっているとき、私たちの体の中ではどのような変化が生じているのでしょうか。
私たちの体の中には、副腎という腎臓のすぐ傍に付いている一対の臓器があります。副腎は3〜4cm程度の大きさですが、この小さな臓器が、ストレス反応に大きな役割を担っています。


副腎とストレスの密接な関係

副腎からは体の状態を調節するための様々なホルモンが分泌されます。
その副腎の外周部にある副腎皮質で産生される「コルチゾール」というホルモンが、ストレス反応に大きな役割を果たしていることが知られています。
そのため、コルチゾールは時に「ストレスホルモン」という呼ばれ方をします。

このコルチゾールの分泌は、脳の下垂体から放出される副腎皮質を刺激するホルモン「副腎皮質刺激ホルモン」によって調節されます。
そして、この「副腎皮質刺激ホルモン」は、さらに下垂体の上位にある視床下部から放出される「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン」によって調節されています。

つまり、私たちは何かストレスを感じるような刺激を受けると、脳の視床下部から下垂体にホルモン分泌の命令が起き、さらに下垂体から副腎にホルモンの刺激が伝わり、副腎からコルチゾール(ストレスホルモン)が産生されるというメカニズムが働いていることがわかります。


ストレスは女性機能にどんな影響を及ぼすのか

この「視床下部→下垂体→副腎皮質」というホルモン伝達の流れを知ることは、ストレスが女性機能にどのような影響を与えるのかを理解する上で、とても重要な意味を持ちます。

なぜなら、女性の卵巣が女性ホルモンを産生し、排卵が起きるためには、「視床下部→下垂体→卵巣」という同様のホルモン伝達の作用が生じているためです。
また、これら以外の多くのホルモンが、「視床下部→下垂体→○○○」というホルモンの流れの中で調整されています。

このホルモンの流れは、通常、一定のバランスでコントロールされていますが、過剰にストレスがかかった場合など、より多量のコルチゾールの産生が必要となった場合には、「視床下部→下垂体→副腎皮質」という伝達以外の働きが鈍くなってしまうと考えられています。

こんな話を聞いたことはないでしょうか。ある女性が、海外留学中だけ月経が止まってしまったが、帰国したらこれまで通り、月経がきちんと始まった――。
つまりこれは、海外留学というストレスを感じる生活の中で、「視床下部→下垂体→卵巣」という働きが落ちて排卵が止まり、無月経になってしまったといえます。


ストレスが妊娠に与える影響は大きい

このように考えると、過剰なストレスは、間接的に卵巣機能を低下させ、ひいては不妊症にもつながっていくことが、ご理解いただけるのではないでしょうか。

昨今、「妊活」という言葉をよく耳にするようになりましたが、妊娠を目指している期間は、仕事をお休みするなどして、できるだけストレスを軽減することも、妊活の目的の1つとなっています。
あるいは、体外受精を繰り返し行なっても妊娠しなかったご夫婦が、治療をやめたあとに自然妊娠した話など、ストレスが妊娠の妨げになっていたかもしれない、というエピソードも少なくありません。

また、ストレスが卵巣機能を低下させるということ以外に、ストレスを感じると甘いものが食べたくなり、太ってしまうという話もあります。
ストレスによって放出されるコルチゾールには、「血糖値を上昇させる」働きがあります。

血糖値が上昇すると、体は血糖値を下げるために膵臓からインスリンが分泌されます。
インスリンによって血糖値が下がると、その血糖値をあげるために甘いものが食べたくなる。
血糖値が上がったり下がったり、正に負の循環で、そして肥満もまた不妊症の原因の1つとなります。

ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールは、体の中で、血糖値や血圧に関係する重要な役割を担っています。
そして本来は、ストレスから体を守ってくれる働きをしています。しかし、それも過剰になれば体に何らかの弊害を生じさせてしまうのです。


ストレスはなくせない。だからこそ、過剰なストレスを感じない工夫を

アメリカのニュース記事で、ある不妊治療クリニックの話を読んだことがあります。

そのクリニックは、カリブ海に浮かぶ島にあり、そこでは不妊治療施設だけでなく、常に美味しくて栄養のある食事が用意され、スパやエステ、スポーツジムなど、あらゆるリラクゼーション設備が整えられている、まさにそこはストレスフリーの楽園のような場所です。

そこでの不妊治療の結果は、一般的なクリニックの結果と比較してはるかによいという話でした。

このカリブ海の島まで行くことはなかなか叶わないことではあります。
また、仮にそこに行くことができたとしても、慣れてしまえば「何もストレスがないことがストレス」と感じるかもしれません。

普段の生活の中から、ストレスをなくすことは難しいことです。
そして、何にストレスをどの程度感じるのかも、人によって異なります。
しかし、少なくとも過剰なストレスは、私たちが心だけでなく、体の機能にもよくない影響を与えているのです。

自分の心と体を見つめ直し、心からリラックスできる環境を整えたり、ストレスを感じにくい心のコントロール法を学んだりすることも、私たちにとって大切なことなのです。


オリーブレディースクリニック麻布十番 院長 山中

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